『ローグ・ワン/スターウォーズ・ストーリー』は完成度の高い娯楽作だ

平和に暮らしていた家族のもとに悪の帝国軍の兵士たちがやってくる。
一人娘だけは何とか逃げ切るが、母は殺され、父は連れ去られる。
マッツ・ミケルセン演じるゲイレン・アーソは極めて有能な兵器開発に携わっている技術者で、スターウォーズファンなら誰でも知っている惑星破壊兵器デススターの設計に必要不可欠な人物だったのだ。
帝国軍は彼を使ってデススターを建設するつもりだったのだ。

 

両親を一気に失った娘、どこか『スターウォーズ/フォースの覚醒』と似てなくもない。
今や女性が活躍する時代なのだろうか。
『フォースの覚醒』でも、今作でも、男は悪者もしくは脇役で、主役は女性だ。

 

僕はあまりスターウォーズファンではないが、この冒頭シーンで一気に物語に引き込まれた。
なぜか?
ゲイレン役のマッツ・ミケルセンの大ファンだからだ。
彼は知る人ぞ知る、今最も輝いている俳優で、そのきっかけとなったのが、アメリカのTVシリーズ『ハンニバル』でのハンニバル・レクター役だ。
冷酷なサイコパスでありながら、頭脳明晰で膨大な知識を備えた、洗練さを極めたミケルセンのハンニバルは、初代ハンニバル役を演じたアンソニー・ホプキンスを超えたと言っていい。

この作品の中でもミケルセンは桁違いの存在感を見せつけている。


しかし、この映画のすごいところはそこではない。
僕が崇拝するレクター博士役をこれ以上ないくらいに見事に演じたミケルセンの存在感がかすむくらいに、それぞれの出演者たちの存在感が際立っているのだ。
最近の映画でここまでキャラクターを描ききった映画があっただろうか?
最近の映画はやたら迫力あるCGや技術には優れてはいるものの、映画の最も重要な要素であるキャラクターの描写は疎かにされている作品が多い。
だから観客はあまり登場人物に感情移入できない。
その結果物語体験が薄っぺらくなり、作品への満足感もあまりなかったりするのだ。

 

この作品には様々な魅力あるキャラクターが登場する。
美人だがタフさを兼ね備えているジン、イケメンでやさしいが正義を重んじるキャシアン、ハードボイルドなアンドロイドK-250、アジア系の盲目の剣士チアルート、強力な重火器を操るベイズ、帝国軍のパイロットでありながら正義の心に目覚めたボーディー、それぞれが皆魅力的で、彼らの活躍を見ているだけでドキドキワクワクできる。
特に盲目の剣士チアルートはすごい。
座頭市のように、目が見えないのに敵を正確にとらえ、長剣で敵を一刀両断する。
もうこれは、クロサワの『七人の侍』ではないか!
(何となくそう思ったのですが、実は『七人の侍』観てません)

 

今回もネタバレは避けたいため、この辺で映画の内容については説明を終えたいと思う。
ただ、最後にひとこと言わせてもらうと、これは観て損のない映画だ。
オープニングからエンディングまであっという間に過ぎ去る。


いい映画というのはそういうもので、よく覚えているのは同じくSF映画の新『スタートレック』シリーズの最初の作品だ。
映画が始まって間もなく尿意をもよおし、トイレに行こうかどうか考えたのだが、両側に人がいて行きづらくて我慢していた。
しかし映画の内容があまりにも面白くて、どんどんストーリーにのめりこみ、気がつくと尿意が消えていた(ちなみにこれ以降映画を見る時は通路側に席をとることにしている)。

 

逆もある。
映画が始まってちょっとした尿意をもよおし、「ま、これくらいだったら最後まで我慢できるだろう」と思っていると、どんどん尿意がひどくなるパターンだ。
おそらく映画があまりにもつまらなくて、映画以外のことに気が行ってしまうのだろう。
尿意は映画の質を見分けるバロメーターなのだ。
『ローグ・ワン』は間違いなく尿意を寄せ付けない傑作である。